海外マーケティングブログ
海外WEBマーケティングの落とし穴:色やマークに対する認識と文化的な違い
- 2026.03.31
- 越境EC
「日本では当たり前のデザインが、海外では全く逆の意味で受け取られてしまった」
そんな失敗を避けるために、今回の記事では、グローバル展開を目指すマーケターが知っておくべき、デザイン視点から見た、文化による認識のギャップを掘り下げます。
①色は「直感的な言語」である

テキストを読む前に、ユーザーはサイトや広告の「色」を脳で処理します。
色は言語の壁を越えて直感的なメッセージを伝えますが、その解釈は文化圏によって、共通点もありますが強調されるニュアンスの重みが異なる場合もあります。日本と、英語圏での色のイメージの違いをまとめてみました。
「赤」の解釈
日本: 紅白に代表されるように「情熱」「お祝い」といったポジティブな意味が強く、購買意欲をそそる「セール(安売り)」の定番色でもあります。もちろん「危険・警告」の意もありますが、総じてアクティブな印象で受け入れられます。
英語圏: 「危険」「エラー」「停止」という拒絶のニュアンスが日本以上に強烈です。金融系サイトで赤を使うと「赤字(ロス)」を直結させるため嫌われる傾向にあります。マーケティングでは「限定一時間!」のような「緊急性(Urgency)」を煽る際に有効です。多用するとユーザーに攻撃的なプレッシャーを与える可能性があります。
「青」の解釈
日本: 「誠実」「清潔感」「知性」の象徴です。ビジネスの場で多用されるように、コーポレートカラーとして圧倒的な人気を誇ります。
英語圏: 日本同様に「信頼」「権威」「落ち着き」を意味しますが、彩度の低い暗い青は「憂鬱」「孤独」「悲しみ」を強く想起させる点です。そのため、先進性や活発さをアピールしたい海外のテック系企業などは、くすみのない明るく鮮やかな青を好みます。
「白」の解釈
日本: 「無垢」「神聖」「潔白」を象徴します。日本では「何もないこと」に対する抵抗感が少なく、情報の密度よりも「正しさ」や「素朴さ」を感じさせる色として機能します。
英語圏: 「高級感」「ミニマリズム」「洗練」を意味します。特にウェブデザインにおいて、白は単なる背景ではなく「ホワイトスペース(余白)」という重要なデザイン要素として扱われます。余白をたっぷり取ったデザインは、情報を整理するだけでなく、ブランドの「自信」や「贅沢さ」を演出するための戦略的なスペースとして捉えられています。
「緑」の解釈
日本: 「安心」「自然」「健康」といったリラックス効果を期待して使われます。また、公共施設では非常口に代表される「安全な場所への誘導」という機能的な役割も定着しています。
英語圏: 自然や環境のイメージは共通していますが、米国を中心とした英語圏では「お金(ドル紙幣の色)」を強く連想させる色が緑です。このため、フィンテック、投資系サービスでは、富や成功を象徴する色として戦略的に緑が選ばれることが多々あります。また、信号機のイメージから「前進(Goサイン)」「許可」といったポジティブなアクションを促す色としても非常に強力です。その他「誘導(非常口や避難誘導)」の意味合いも。
②見落としがちな「マークとピクトグラム」の罠

色と同じくらい厄介なのが、記号(アイコン)の意味です。
直感的だと思って使っているピクトグラムが、特定の地域では通用しない、あるいは不快感を与えることがあります。そして、私たちが日常的に使う記号が、実は日本独自の文化圏でしか成立しないローカルな共通言語であることをご存知でしょうか?
「○」は正解ではない?チェックマーク(✓)との主権争い
日本では「正解」や「承認」の代名詞である「○(マル)」。しかし、グローバルスタンダードにおいてその座を奪うのは「チェックマーク(✓)」です。
欧米諸国において、空のボックスに印をつける行為は「選択」や「完了」を意味し、その際に最も多用されるのがチェックマークです。
興味深いことに、異文化圏のビジネスパーソン向けに「日本で仕事をするなら、○(マル)がOKという意味だと覚えよう」と解説する専用のウェブサイト(例:Japan Consulting Office)が存在するほど、この認識の差は根深いのです。
「×」は必ずしも「拒絶」ではない
日本人にとって「×(バツ)」は、否定、禁止、あるいは間違いを意味するネガティブな記号です。しかし、海外ではこの解釈も一筋縄ではいきません。
箇条書きのブレットとしての「×」: ある欧米企業が作成したスライドでは、箇条書きの先頭(ブレット)に「×」に似たマークが使われ、提案のメリットを列挙する際にバツ印に見えるブレットを使用したため、日本側には全て否定的に見えてしまったという話も上記の例ページで紹介されています。
その他の例:日本のプレイステーション等のゲームコントローラーは決定が「○」、キャンセルが「×」が殆どですが、欧米を中心とした他の国では配置は同じですが、決定が「×」でキャンセルが「○」です。(Xboxなど)これは欧米では、×は「チェックマーク」(✓)の意味を持つため、「はい」「了解」と認識できるからです。(参照元:PS5のボタンはなぜ「×で決定」に変わったのか)また、その認識から欧米では、テストの正解は「○」ではなく「✓」や「×」を付ける文化があります。
国際共通の「否定」デザイン: もし世界中の誰が見ても「禁止・否定」と伝わるデザインを目指すなら、道路標識などでも採用されている「プロヒビション・サイン(🚫:丸に斜線)」を使用するのが最も安全な選択です。
最も理解されない「△(三角)」の正体
「○(良)」と「×(悪)」の中間、いわゆる「可もなく不可もなく」「保留」「不完全」を表現する際に、日本人は迷わず「△(三角)」を使います。しかし、この「中間としての三角」という概念は、海外ではほぼ通用しません。
デザインの「翻訳」を怠らない
海外向けのウェブサイトや資料を作成する際、色の選定に気を配るマーケターは多いですが、記号の選定まで意識が回るケースは稀です。
ターゲットとする市場の文化背景を鑑み、記号一つひとつに「翻訳」のプロセスを通すこと。その細やかな配慮が、ブランドへの信頼と、正確な情報伝達を支えます。
③知っておいて損はない?番外編:温泉マーク

色や記号に加え、具体的なピクトグラムでも驚くべき認識の差があったり、知らなかった共通の認識点があります。その代表例が、私たち日本人にはあまりに馴染み深い「温泉マーク(♨︎)」。
このマークが、海外では「温かい料理」に見える場合があるのです。3本の湯気が立ち上るあのマークを見て、日本人が「お風呂」以外を連想することはまずありません。これは地図記号として明治時代から使用され、JIS案内用図記号にも採用されるなど、日本文化に深く定着しているからです。
しかし、温泉文化が身近にない海外の方々の目には、全く別のものに映ります。
器から湯気が上がっているマークとして、温かいスープやラーメン、コーヒー、「温かい料理のマーク」に見えてしまうそうです。そうなっては、このマークを掲げた施設を見て、「ここはレストランだ」と誤認して入ってくる観光客も少なくありません。
ということで、2014年に国土地理院は「外国人にわかりやすい地図表現検討会」を設置し、経済産業省のJIS改正によって、温泉マークやコンビニマークなどが見直されることになりました。2017年7月にJIS Z 8210が改正され、従来のマークとISOマークの併用(選択制)が正式に規定されました。ISO 7001(PI TC 013)に登録されている温泉マークは、3人が温泉に浸かっている様子が表され、3人の上に、従来の温泉マークと同様に3本の湯気が描かれています。
従来の温泉マークはJIS(国内規格)となっているため、外国人からは「温かい料理」や「レストラン」に見えるという意見があり、東京オリンピックに向けてISOの温泉マークへの変更が検討されました。しかし、温泉マーク変更についてのアンケート調査では、日本人と外国人で意見が分かれる結果となりました。経済産業省の調査によると、日本人の63%がJISの温泉マークが分かりやすいと回答。外国人の71%はISOの温泉マークが分かりやすいと回答しています。現在では、古くから使用されている温泉マークも残しつつ、状況に応じてISOの温泉マークを使用する新旧選択制がとられるようになりました。
この温泉マーク騒動から学べるのは、「どれだけ優れたデザインでも、ターゲットの文化的文脈を超越することはできない」という教訓です。ターゲットが「何を見て育ってきたか」を知らなければ、こちらの意図したホスピタリティは、時に「温かいラーメンの看板」程度の情報に変換されてしまうのです。
まとめ

今回の記事で見てきたように、色やマークは単なる視覚要素ではなく、その土地の歴史や宗教、生活習慣が凝縮された「文化のコード(暗号)」です。
日本市場で成功したデザインをそのまま海外へ持ち込むことは、いわば「翻訳機を通さないまま外国語でスピーチをする」ようなもの。私たちが当たり前だと思っている○・△・×の序列や温泉の湯気さえも、一歩国境を越えれば、全く異なる文脈で読み解かれてしまいます。
海外ウェブマーケティングを成功させる鍵は、単なる「かっこいいデザイン」を追求することではありません。
現地のユーザーがその色や形に何を抱くのか、徹底的にリサーチすること
「ローカライズ(翻訳)」の枠を超え、文化に最適化させる「カルチャライズ」の視点を持つこと
デザインの細部に宿る「違和感」を一つひとつ取り除いていく作業は、地道ではありますが、現地のユーザーに対する最大の敬意の表現でもあります。
視覚情報という「言葉なき言語」を正しく使いこなし、ターゲットの心にノイズなくメッセージを届ける。その深い洞察こそが、グローバル展開における真のブランド価値を築き上げるのです。
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