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製造業が海外で成功するためのバリュープロポジション- 価格競争から脱却し、選ばれるための戦略

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1. はじめに

日本の製造業が誇る「メイド・イン・ジャパン」の品質は、今なお世界的に高い評価を得ています。しかし、いざ海外市場に目を向けると、その品質だけでは勝ち抜けない厳しい現実に直面します。特に、低価格を武器にする中国製品などとの競争は熾烈を極め、単純な価格勝負では多くの日本企業が不利な状況に立たされているのが現実です。

「品質は良いはずなのに、見積もりで負けてしまう」 「製品の本当の良さが、なかなか海外の顧客に伝わらない」

こ弊社にWEB改善コンサルを求めていらっしゃるお客様にも、こうした悩みをお持ちの方が多くいらっしゃいます。この根源は、自社の「本当の価値」を、顧客が理解できる形で伝えられていないことにあります。折角優れた価値をもっているのに、その情報を伝えきれていないことが多いのです。そこで不可欠となるのが、バリュープロポジション(Value Proposition:自社独自の強み)の抽出です。これをしっかりとお客様にお伝えすることで、貴社の価値を感じていただける情報発信となっていきます。

本記事では、価格競争の泥沼から抜け出し、海外のクライアントから「あなたから買いたい」と指名されるためのUSP抽出プロセスを、調査から具体的な情報発信まで、ステップバイステップで徹底解説します。

バリュープロポジションとは?

特定の顧客に対して、自社がどんな課題(ジョブ)をどんな成果で解決し、代替手段より「なぜ」優れているかを簡潔に約束する中核メッセージのことを指します。顧客が明確に持つ課題に対して、他社は提供できないが、自社なら提供できるものと考えると理解がしやすいです。

バリュープロポジション(Value Proposition)を端的にベン図を用いて説明した図

 

2. なぜ今、バリュープロポジション抽出が必要なのか?海外市場の現実

価格以外の価値を提供できないと価格競争に巻き込まれてしまうことを暗示する画像

海外市場で戦う上で、なぜバリュープロポジションの抽出がこれまで以上に重要になっているのでしょうか。その背景には、日本企業が直面する3つの大きな現実があります。

理由1:価格では勝てない – 日本製品が直面するコストの壁

最大の理由は、多くの日本製品が初期コスト(イニシャルコスト)で海外製品、特に中国製品に勝てないという現実です。これは弊社のBtoBのお客様でも切実な問題で、実際、JETROの2022年の調査によると、日本の製造原価を100とした場合、中国など現地での製造原価は平均で約81.4となり、約20%のコスト差があることが確認されています。(Jetro調査)更に、2024年の調査では、製造業の作業員の月額基本給は、中国で約654ドル、タイで約437ドル、インドネシアで約384ドル、ベトナムで約302ドルです。日本はこれらより明確に高コストな状況にあり、構造的に価格優位を取るのが難しい現実が浮き彫りになります。(Jetro調査

生産コストや人件費の違いから、同程度のスペックに見える製品であれば、価格面で劣勢に立たされることは少なくありません。顧客の購買担当者が価格を最優先する場合、品質の高さを口頭で説明するだけでは、見積もり比較の段階で候補から外されてしまうのです。

理由2:本当の価値が伝わっていない – 「見えない価値」の言語化不足

しかし、日本製品の真価は、購入時の価格だけでは測れません。例えば、次のような価値が挙げられます。

  • 高い耐久性:長期間にわたって安定した性能を維持する。
  • 低いランニングコスト:故障が少なく、メンテナンス費用やダウンタイム(稼働停止時間)を削減できる。
  • 長期的なLTV(Life Time Value):製品ライフサイクル全体で見たときに、顧客にもたらす価値が非常に高い。

これらは日本企業が誇るべき強みですが、多くの場合、カタログスペックには現れない「見えない価値」です。「信頼の日本製」というような情緒的な表現よりも、この価値を言語化・数値化して顧客に示す必要があります。そうでなければ、「ただ高いだけの製品」という誤った認識で、より安い製品に目が行ってしまします。

理由3:海外企業の多様な評価基準 – “安さ”だけが正義ではない

一方で、賢明な海外企業、特にBtoBの領域では、単なる「安さ」だけで調達先を決めるわけではありません。彼らはビジネスの継続性を重視し、以下のような多角的な視点で評価を行っています。

  • 調達リスクの低さ:納期通りに、常に同じ品質の製品が供給されるか。
  • 品質の安定性:製品の品質にばらつきがなく、自社の生産ラインやサービスに悪影響を及ぼさないか。
  • 長期的なROI(Return on Investment:投資対効果):初期コストは高くても、故障による生産停止リスクやメンテナンスコストを考慮すれば、結果的に安くつくのではないか。
  • サポート体制:トラブルが発生した際に、迅速かつ的確な技術サポートを受けられるか。

これらの評価基準こそ、日本企業がバリュープロポジションとして、訴求をぶつけるべき主戦場です。価格以外の判断軸を持つ顧客に対し、自社の強みを的確に訴求できれば、価格競争を回避し、むしろ高付加価値なパートナーとして選ばれる道が開けます。

3. 海外で指名されるためのバリュープロポジションの抽出プロセス

WEBサイトの訴求を決めるプロセスを表した図

それでは、具体的にどのようにバリュープロポジションを抽出し、磨き上げていけばよいのでしょうか。ここでは、3つのステップに分けて解説します。

Step 1. 徹底的な調査と戦略立案

バリュープロポジショ抽出の第一歩は、自社を客観的に見つめ直すための調査から始まります。思い込みや感覚に頼るのではなく、事実に基づいた分析が不可欠です。

海外市場調査

弊社がまず行うのは調査です。弊社は主に3C分析を利用しています。顧客に最も近い現場の担当者への聞き取りや、市場概況調査を通して、ターゲット市場における主要な競合企業(ローカル企業、中国企業、欧米企業など)をリストアップします。そして、彼らの製品の品質(スペック、採用されている規格)、価格帯サービス体制(保証期間、サポート拠点、対応言語)を徹底的に自社と比較分析します。これにより、市場の基準値と、自社が差別化できる可能性のある領域が見えてきます。

海外ターゲットユーザー像の定義(ペルソナ設定)

「海外の顧客」と一括りにせず、意思決定に関わる人物像を具体的に定義します。BtoBの購買決定には、様々な人が関与しているため、その人たちの考えを納得させる情報(メッセージ)を届ける必要があります。例えば、下記のような人たちが、それぞれの興味で貴社の製品やサービスを判断するでしょう。

  • 現場のエンジニア:彼らは購買決定に重要な判断を上に挙げてくれます。製品の使いやすさ、性能の安定性、トラブル時の対応速度を重視します。
  • 調達部門の担当者:彼らの関心事はコスト、納期、支払い条件です。KPIはコスト削減率かもしれません。
  • 経営層:彼らは事業全体のROI、ブランドイメージ、長期的な供給安定性を気にしています。

誰に何を伝えるべきかを明確にするために、具体的なペルソナを設定することが戦略の精度を高めます。

自社の強み・弱みの洗い出し(SWOT分析など)

上記の調査結果を踏まえ、自社の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を整理します。特に重要なのは、「競合は弱いが、自社は強い」という領域を見つけ出すことです。そして、その強みが「ターゲット顧客の重要な課題を解決できるか」という視点で絞り込みます。ここで特定された要素こそが、「価格以外の意思決定要因」となり、USPの核となるのです。

Step 2. バリュープロポジションの明文化 – “曖昧”を”具体”に変える

調査によってバリュープロポジションの核が見つかったら、次はそれを誰にでも伝わる「強い言葉」に変換する作業です。ここで重要なのは、主観的で曖昧な表現を避け、数値や客観的な事実で裏付けることです。

【明文化のBefore → After 例】

Before After
高品質な製品です 国際規格ISO9001認証工場で生産、全数に対して30項目の出荷前検査を実施
耐久性が高く、長持ちします 平均使用年数は15年。一般的な製品(平均7年)の2倍以上です
サポート体制が万全です 世界30カ国にサービス拠点、技術的なご質問には24時間以内に一次回答をお約束
安定した供給が可能です 主要部品は複数社から調達する体制を構築し、地政学リスクを最小化

 

このように、具体的な数値、規格名、体制などを盛り込むことで、言葉の信頼性と説得力は飛躍的に高まります。「なんとなく良さそう」から「これなら間違いない」へと、顧客の認識を変えることがこのステップのゴールです。

Step 3. サイト訪問者に合わせた訴求 – 「誰に」「何を」伝えるか

最後に、明文化したバリュープロポジションを、Step 1で定義したサイト訪問者(ペルソナ)に合わせて最適化し、訴求します。全員に同じメッセージを投げかけるのではなく、相手の心に響く「翻訳」を行うのです。

  • 技術者・エンジニア向け: 彼らは「技術的な信頼性」と「問題解決」を求めています。製品の技術的な優位性を詳細なデータで示す技術資料や、よくあるトラブル事例とその解決策をまとめた技術記事などが効果的です。専門用語を交えながら、彼らの「知りたい」に応える深い情報を提供することで、技術的なパートナーとしての信頼を勝ち取ります。
  • 調達部門向け: 彼らの関心事は「コスト」です。初期コストの高さを乗り越えてもらうために、長期的なコスト削減効果をシミュレーションで見せることが有効です。「本製品は初期費用が20%高いですが、故障率の低さとメンテナンス費用の削減により、5年間のトータルコストは30%削減できます」といった具体的なROIの提示が心を動かします。
  • 経営層向け: 彼らは「事業の安定性と成長」を見ています。個別の製品スペックよりも、貴社と取引することが、自社の事業にどのようなプラスの影響を与えるかという大きなストーリーが響きます。「長い平均しよう年数と弊社の安定供給体制が、御社の生産ラインの非稼働リスクを年間〇%低減し、ブランド価値の維持に貢献します」といった、経営課題に直結するメッセージが有効です。

    4. バリュープロポジションを浸透させるコンテンツを通じた実装

    階段設計ー問い合わせ前に「小さなゴール(資料DLなど)」を置いて段階的に導くことを示唆する図

    USPを抽出し、メッセージを磨き上げても、それを顧客に届けなければ意味がありません。ここでは、Webコンテンツを通じてUSPを効果的に浸透させるための具体的な方法論を紹介します。

    階段設計で顧客を導く

    BtoBの顧客は、いきなり製品を購入するわけではありません。様々な意思決定にかかわる部署や人が課題を「認知」し、解決策を「検討」し、最終的に「意思決定」するという購買プロセスをたどります。この各段階に合わせて、適切なコンテンツを提供していく「階段設計」が重要です。

    段階    求める情報 コンテンツの例 コンテンツの目的
    認知

    まずは知ってもらう、課題に気づかせる

    この段階のユーザーは、まだ特定の製品を探しているわけではなく、自身の業務課題に関する情報を探しています。

    技術ブログ、業界トレンドの解説記事、FAQ(よくある質問)、比較記事(例:「〇〇の選び方」) 専門知識を提供することで、まずは「頼れる専門家」として認知してもらう。自社のUSPに関連するキーワードで検索上位を獲得し、潜在顧客との最初の接点を作る。
    検討

    選択肢の一つとして深く理解してもらう

    課題を認識したユーザーが、具体的な解決策を探し始める段階です。自社製品がなぜ優れているのかを、客観的な証拠とともに示します。

    導入事例、お客様の声、詳細な製品資料、コスト試算資料(ダウンロード形式) 第三者の評価や具体的なデータを通じて、USPの裏付けを提示する。顧客に「自社で導入したらどうなるか」を具体的にイメージさせ、比較検討の候補に残してもらう。
    意思決定

    最後のひと押しで選んでもらう

    複数の候補から最終的に1社を選ぶ段階です。購入への不安を解消し、自社を選ぶことが最も合理的であることを論理的に示します。

    ホワイトペーパー(特定の課題に対する深い考察と解決策)、ROIシミュレーションツール、製品デモ動画、Webセミナー(ウェビナー) 営業担当者が直接話すような、踏み込んだ情報を提供する。価格以上の価値があることを最終的に納得させ、問い合わせや見積もり依頼といった行動を促す。

     

    継続的な発信とフィードバックがバリュープロポジションをさらに磨く

    コンテンツは一度作って終わりではありません。継続的に発信し、その反応を分析することで、さらなるビジネスチャンスが生まれます。私たちのBtoBマーケティングチームでは、ここを非常に重視しています。

    Webサイトのアクセス解析ツール(Google Analyticsなど)や検索キーワード分析ツール(Google Search Consoleなど)を使えば、どの技術記事が多く読まれているか、海外のどの国からのアクセスが多いか、どんなキーワードで検索されているか、といったデータが手に入ります。このデータは、市場の隠れたニーズを映す鏡です。例えば、「特定の部品のメンテナンス方法」に関する記事へのアクセスが急増しているなら、その分野でのサポート需要が高いと推測できます。このインサイトは、既存のUSPを再定義したり、新たなサービスを開発したりするための貴重なフィードバックとなるのです。実際に、弊社のお客様で、この一連のプロセスから新たなキーワードを発見し、新規サービスの開発に取り組み始めた事例がありました。

    5. 事例紹介:TCO(総所有コスト)の訴求で見習うべきサイト例

    私たちのお客様ではありませんが、ランニングコストや、メンテナンス頻度を下げることによるTCO(総所有コスト)で安くなることを実際のケーススタディーなどで顧客を説得し、高いシェアを海外で取っている日本企業がありますので、ご紹介します。

    日本精工株式会社(NSK)様(軸受)—「寿命×ライン停止ゼロ志向」で指名買い

    日本を代表する精密部品メーカーの日本精工株式会社(NSK)様の事例紹介ページの画像

    日本を代表する精密部品メーカーの日本精工株式会社(NSK)様の事例紹介ページの例です。自社の強みを端的に伝えられていて、実際のコスト削減事例を数字で表している等、見習うべきページです。

    • WEBサイト:https://nskmetals.com/resources/case-studies/cold-rolling-mill/
    • スタイル:事例ページ
    • ニーズ:製鉄設備(冷間圧延・連続鋳造など)で粉塵・高温・衝撃により、数か月で寿命が尽きる。
    • 訴求:特殊鋼材(SWR/HTF等)とアプリケーションレビューで最適仕様を共同設計。指標は“単価”でなく寿命(29–50か月に延伸など)と停止削減。
    • 成果:軸受寿命を10倍級/数倍に延ばし、保全費と停止ロスを大幅低減。置き換えで総コストが下がることをケースで可視化。

    株式会社キーエンス様(UVレーザコーダ FP-1000)—「消耗品ゼロ×停止削減でROI/TCOを可視化」

    日本を代表するFAメーカーのKEYENCE様の英語リソース/ランディングページの画像

    日本を代表するFAメーカーのKEYENCE様の英語リソース/ランディングページの例です。インクやリボン等の消耗品ゼロ、定期保守の最小化、長寿命による停止削減を金額化しやすい指標で示しており、価格ではなく総所有コスト(TCO)とROIで選ばせる好例です。また、各所に配置されたCTA(問い合わせ、資料請求への導線)に関しても見習うべき点が多くあります。

    • WEBサイト:https://www.keyence.com/products/marker/uv-laser-printer/resources/uv-laser-printer-resources/maximizing-roi-with-a-uv-laser-coder-cost-effective-high-precision-marking.jsp
    • スタイル:リソース記事/製品導線付きLP
    • ニーズ:TTO/インク系プリンタの隠れコスト、高速ラインでのスミア/乾燥待ち、食品・薬機系の衛生/トレーサビリティ要件への対応。
    • 訴求:消耗品ゼロ&定期保守ほぼ不要、ダウンタイム削減→生産性向上、長寿命設計(10–20年想定)でリプレース頻度と部品費を抑制、衛生・品質、環境負荷と廃棄コストの削減
    • 成果:産業用マーキングにおいて、消耗品と定期保守費用がゼロになることを訴求。交換時間ゼロで、年間1500分(2.5日)が削減できることを訴求。

    6. まとめ:価格競争から価値競争へ

    最後に、重要なポイントを改めて整理します。

    • 海外での成功は価格勝負ではなくバリュープロポジションの勝負:安さで戦うのではなく、自社だけが提供できる独自の価値で選ばれることを目指します。
    • バリュープロポジションは「調査 → 明文化 → 訴求」のプロセスで抽出する:客観的な分析に基づき、強みを数値や事実に落とし込み、ターゲットに響く言葉で伝える。
    • コンテンツを通じてバリュープロポジションを伝え続ける:顧客の購買プロセスに合わせた情報発信で、認知から信頼、そして最終的な指名獲得へと繋げる。
    • 継続的な発信は、新たな事業機会の発見にも繋がる:市場からのフィードバックを元にバリュープロポジションを磨き続けることが、持続的な成長の原動力となる。

    海外市場は、決して簡単な戦場ではありません。しかし、自社の強みを正しく理解し、それを適切な方法で伝え続けることで、価格競争の波にのまれることなく、価値を認められ、必要とされる存在になることは十分に可能です。

    この記事が、貴社の海外展開の一助となれば幸いです。

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