海外マーケティングブログ
海外営業の属人化をどう解消するか 製造業BtoBデジタルマーケティングの現実解
- 2025.12.13
- 海外BtoB
はじめに
内需の縮小を背景に、海外市場への販路開拓に取り組む製造業・メーカーは年々増えています。しかしその一方で、海外営業の成果が特定の担当者に集中し、営業プロセスやリード獲得が属人化してしまっている企業も少なくありません。
本記事では、こうした海外営業の属人性をどのように解消し、組織として再現性のある海外ビジネスを構築していくべきか、その現実的なアプローチをご紹介します。
なぜ製造業の海外営業は属人化しやすいのか
製造業の海外営業が属人化しやすい背景には、いくつかの構造的な要因があります。海外市場は国・地域ごとに商習慣や業界構造が異なり、初期段階ではどうしても語学力や経験のある特定の人材に業務が集中しがちです。

また、展示会での名刺交換、既存顧客からの紹介、個人的なネットワークを起点とした引き合いなど、リード獲得そのものが「人」に依存しているケースも多く見られます。その結果、成果が出ているうちは仕組み化が後回しになり、気づかないうちに属人化が進んでしまうのです。
著者が相談頂く海外販路開拓案件ではほとんどの企業が属人化している状態でした。これは年商5億円の会社から600億円の会社まで規模は問わず、ほとんどの企業で発生している課題です。
属人化の本当のリスクは「退職」だけではない
海外営業の属人化というと、「担当者が退職したら売上が止まる」というリスクが真っ先に思い浮かびます。しかし、実際にはそれ以上に見落とされがちな問題があります。

エース海外営業がボトルネックになる
優秀な海外営業が、問い合わせ対応から商談、フォローまでを一手に担っている場合、売上を伸ばせる余地があっても、対応しきれず機会損失が生まれます。属人化は、成長の上限を作ってしまう要因にもなり得ます。企業の成長スピードがエースの海外営業マンの処理スピードに依存してしまうことになります。
ノウハウが組織に蓄積されない
どの国・業界から、どのような課題を持った企業が問い合わせてくるのか。どの情報を最初に伝えると商談が進みやすいのか。こうした知見が個人の中に留まり、組織の資産にならない状態が続いてしまいます。
次世代メンバーが育たない
海外営業が「特別な人の仕事」になってしまい、メンバー層が経験を積む機会が生まれにくくなります。結果として、海外ビジネスが特定の人材に固定化されてしまいます。
海外営業のエースも本当はノウハウを渡したい
私たちが海外営業のエースにヒアリングをさせて頂くと、彼らも若手にノウハウを渡したいと考えています。しかし、現場の空気感や言葉選び、思考プロセスなど、一人では言語化が難しい部分があり、ノウハウの継承が頓挫してしまっていることが多いです。
デジタルマーケティングが属人化解消につながる理由
こうした課題に対して有効なのが、デジタルを活用したマーケティングへの取り組みです。ここで重要なのは、単に英語サイトを作ることではありません。
エース海外営業が日々行っている判断や説明、つまり「頭の中にあるノウハウ」を整理し、デジタル上に落とし込むことがポイントです。私たちは、エースの営業マンのトークスクリプトやノウハウを海外向けのWebサイトに落とし込むことでサイト上で提供する情報とその後のセールストークの乖離を減らすことができると考えています。
また、サイト上にエースの営業マンのノウハウを載せることで若手の営業マンも同様のセールストークができるようになります。
企業として情報開示が困難なことも
これはまた別の問題ですが、多くの企業がこの取り組みをする際に競合他社に情報を渡したくない、クライアントが事例協力してくれないという課題に直面します。私たちはこの問題に対しても何度も取り組み情報をレベル分けして出すことで競合他社にコアとなる情報を渡さず、欲しい顧客のリードを獲得するメソッドを持っています。
製造業BtoBデジタルマーケティングの現実解(3つのステップ)
製造業の強みは「技術力」と「製品力」です。これをデジタル上で正しく伝えることが鍵となります。

ステップ1:Webサイトを「24時間働く優秀な営業マン」に変える
ただ英語に翻訳しただけの会社案内サイトでは意味がありません。海外の技術者や購買担当者が知りたい情報を網羅した「使えるサイト」にする必要があります。
【現実解のアクション】
スペック・技術情報の詳細開示: カタログPDFだけでなく、Web上で検索・比較できるデータベース形式にする。可能であればCADデータや仕様書へのアクセス(要登録)を提供する。
→ユーザーがが見つけやすくなるだけでなく、Web上に情報を載せることで海外のGoogleの検索結果に表示されやすくなります。
課題解決型コンテンツ(ソリューションページ): 「○○の歩留まりを改善したい」「××の耐久性を上げたい」といった、顧客の課題から製品を探せる導線を作る。
→多くの企業が具体的な事例を出せないことが多いです。そのため、課題ベースで解決事例を用意することで課題をお持ちの海外のお客さまが見つけてくれる可能性が高まります。
明確なCTA(行動喚起): 「お問い合わせ」だけでなく、「技術資料ダウンロード」「オンライン相談予約」「サンプル請求」など、検討度合いに応じた複数の選択肢を用意する。
属人化解消ポイント: これまで営業担当者が口頭や個別メールで説明していた技術的な質問への回答を、Webサイトが自動で行ってくれるようになります。
ステップ2:営業の知見を「コンテンツ資産」に変える
ベテラン営業マンが持っている「顧客が何に悩んでいるか」「どう説明すると響くか」という暗黙知を、デジタルコンテンツという形式知に変換します。
【現実解のアクション】
ホワイトペーパー/技術資料: 「業界動向と自社技術の優位性」「導入事例に見るコスト削減効果」など、ノウハウをまとめた資料を作成し、リード情報(見込み客情報)と引き換えに提供する。
動画コンテンツ: 製品の動作デモ、メンテナンス方法、技術解説セミナーなどを動画化する。製造業において百聞は一見に如かずです。
→私たちの場合は、良くご説明させて頂く情報についてはYouTubeに蓄積し、その動画をお渡しするようにしています。
FAQの充実: 海外顧客からよくある質問を体系化し、Webに掲載する。
→FAQコンテンツの充実は忙しい海外が営業の負担を大幅に軽減します。
属人化解消ポイント: 営業担当者の「説明スキル」に依存せず、誰でも一定レベルの品質で自社の魅力を伝えられるようになります。また、これらのコンテンツは一度作ればずっと働き続ける「資産」となります。
ステップ3:顧客情報を「個人のメール」から「会社のデータベース」に移す
デジタルマーケティングで獲得したリードを、MA(マーケティングオートメーション)やCRM(顧客関係管理)ツールで一元管理します。
【現実解のアクション】
リードの一元管理: 展示会で交換した名刺、Webからの問い合わせ、ダウンロード履歴などを全てCRMに集約する。
ナーチャリング(育成)の自動化: すぐに商談にならなくても、「特定の資料をダウンロードした人には、関連する事例メールを自動送信する」といった仕組み(MA)を構築し、中長期的に関係を維持する。
商談化の判断基準(スコアリング): 「料金ページを3回見た」「技術資料をDLした」など、顧客のWeb上の行動をスコア化し、熱度が高まったタイミングでインサイドセールスや現地代理店がアプローチする。
属人化解消ポイント: 「誰が、いつ、何に興味を持ったか」という情報が、担当者の個人メールボックスではなく、会社のデータベースに残ります。担当者が退職しても、後任者は履歴を見てスムーズに引き継ぎができます。
展示会においても、デジタルは属人化解消に有効
製造業の海外販路開拓において、展示会は今も重要な接点です。一方で、展示会対応もエース営業の経験に依存しているケースが少なくありません。エース営業のノウハウを反映した海外向けBtoBサイトは、展示会の前後でも大きな役割を果たします。
・展示会前:事前案内やQRコードでサイトを案内
・展示会当日:その場で該当ページを見せながら説明
・展示会後:フォローアップメールで共通の情報提供
これにより、誰が対応しても一定以上の説明ができ、展示会対応の質を個人から組織へ引き上げることができます。企業によっては、今すぐ客、そのうち客と分けて、そのうち客についてはMA(マーケテイングオートメーション)を活用して対応をするようにしてます。
海外展示会出展案件化に導く3つのポイントでも海外展示会を成功させるための準備について触れています。
海外向けBtoBサイトに落とし込むべき3つのポイント

① どんな企業・課題からの問い合わせを歓迎するのかを明確にする
想定業界、用途、ロット、対応可能地域などを整理することで、問い合わせの質が揃い、営業負荷を下げることができます。
海外向けサイトの役割は良質なリードを獲得することです。リードタイムの長い製造業の場合、特に顧客の絞り込みは重要です。価格が購買決定要因ではない、自社の優位性の価値を感じて頂ける企業のお問合せを獲得するようにしましょう。
価格以外の購買決定要因で戦うために「価格競争に勝てない」と悩む日本メーカーが世界に伝えるべき7つの価値の記事も合わせて読んでいただだくと良いでしょう。
② 商談前に必ず説明していることをコンテンツ化する
製品の強み、他社との違い、注意点、導入プロセスなどを整理し、商談を「説明の場」から「意思決定の場」へ変えます。
③ 展示会・営業活動と分断しない導線設計を行う
展示会、営業メール、オンライン商談と連動させることで、誰が対応しても同じ情報を届けられる仕組みを作ります。
事例紹介|海外営業の属人化をデジタルで解消した取り組み
海外営業の判断基準や説明内容をWebに整理。展示会・問い合わせ後のフォローでも共通基盤として活用し、属人性低減と営業効率化を実現しました。

農業機器・環境機器メーカー(株式会社山本製作所)
海外市場調査と戦略立案から取り組み、海外営業の知見をコンテンツ化。再現性のある海外マーケティング基盤を構築しました。

カスタムコネクターメーカー(株式会社グローブ・テック)
英語サイトを軸に製品価値を整理し、問い合わせ対応の効率化と営業負担の軽減につなげています。

なぜ世界へボカンは、海外営業の属人化解消を支援できるのか
私たち世界へボカンは、18年にわたり日本企業の海外進出を支援してきました。社内にはアメリカ、オーストラリア、マレーシア、スペイン、台湾、日本の多国籍メンバーによる海外Webマーケティング専門チームを擁しています。
旭化成さまをはじめとした製造業の海外マーケティング支援実績も多数あり、エース海外営業のノウハウをデジタルに落とし込み、属人性を抑えながら成果につなげる支援を行ってきました。海外営業の属人化は、人の問題ではなく構造の問題です。私たちは、エース営業の価値を尊重しながら、その知見を組織の資産に変えるデジタルマーケティングをご支援しています。
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