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東南アジア越境ECはどの国から始めるべき?マレーシア・シンガポールを所得×民族×人口で比較してみた
- 2026.07.31
- 海外リスティング広告
「東南アジアに向けて売っていきたいんですが、どの国から始めるべきですか?」
越境ECのご相談で、よくいただく質問です。そして候補としてまず挙がるのが、シンガポールとマレーシア。英語が通じて、東南アジアの中では所得水準が高く、日本企業にとって「始めやすい」2カ国です。
先に結論からお伝えすると、多くの日本企業にとってはシンガポールから始めるのがおすすめです。英語だけでサイトを立ち上げられて、所得水準が高いぶん日本製品の価格が通りやすいからです。ただし、商材や自社の体制によってはマレーシアが正解になるケースもあります。その判断がご自身でできるようになるのが、この記事のゴールです。
というのも、この2カ国、実は市場としてはまったくの別物です。1人あたりGDPの開きは7.5倍。国土は目と鼻の先なのに、売れる商品も、価格の通り方も、商戦期のカレンダーさえ違います。
この違いを知らずに「東南アジア向けサイト」を1本作ってしまうと、商品選び・価格設定・広告予算のすべてがどっちつかずになります。参入国の選び間違いは、越境ECでいちばん高くつく失敗です。あとから方向転換するとなると、サイトの作り直しと広告の仕切り直しで、追加のコストがかかってしまいます。
この記事では、まず「なぜこの2カ国が東南アジアの入口になるのか」を押さえたうえで、所得水準・民族構成・人口動態・英語環境の4つの軸で2カ国を分解して、「自社ECで利益を出せるのはどちらか」を判断する材料をお渡しします。
なお、人口や所得の統計は国によって数え方(総人口・住民・国民)が違います。この記事では分母を明記しながら進めますので、比較のときはそこも一緒に見てみてください。
そもそも、なぜマレーシアとシンガポールが「最初の一歩」なのか
東南アジアには10カ国以上ありますが、日本からの越境ECで最初の候補がこの2カ国に絞られてくるのには、はっきりした理由があります。
理由1:英語でビジネスが完結しやすい
シンガポールは英語がそのまま通じる市場で、後述するとおり英語能力指数では「ネイティブ圏」の扱いです。マレーシアも英語の通用度がアジアトップクラス。つまり、タイ語やベトナム語、インドネシア語のサイトや広告を用意しなくても、英語だけで販売から顧客対応まで始められます。翻訳・運用のコストが、他の東南アジア諸国とはまるで違います。
理由2:東南アジアの中で所得水準が高い
シンガポールの1人あたりGDPは世界トップクラス。マレーシアも、タイ・インドネシア・ベトナム・フィリピンといった域内の主要国を上回る水準です。日本製品は現地の商品より高くなりがちなので、「高くても買える層の厚さ」は入口選びの生命線になります。
理由3:日本ブランドが受け入れられている土壌がある
両国とも日系の小売や日本食が生活にすでに入り込んでいて、「日本の商品」というだけで一定の信頼が乗ります。ゼロから商品カテゴリごと説明する市場と、「日本のあれね」で通じる市場では、広告の効率がまったく変わってきます。
理由4:EC・物流の基盤が整っている
インターネット普及率は両国とも98%台と、日本より高い水準です。国際宅配便の網も太く、日本からの直送でも現実的な日数で届けられる距離にあります。「そもそもオンラインで買う習慣があるか」「ちゃんと届けられるか」を心配しなくていい市場は、東南アジアでは意外と限られます。
理由5:その先の東南アジア展開の足がかりになる
シンガポールは華人系が7割超の市場なので、ここで得た知見は中華圏マーケティングの学びとして横展開できます。マレーシアはムスリム(イスラム教徒)が過半の市場で、ハラル対応を含む「ムスリム市場での売り方」を学ぶ入口になります。その先には、人口2億人超で世界最大級のムスリム人口を抱えるインドネシアが控えています。つまりこの2カ国は、単体の市場である以上に、東南アジア全域へ広げるための実験場と土台を兼ねています。
——というわけで、「まずはマレーシアかシンガポールから」という判断自体は理にかなっています。問題は、そのどちらから始めるか。ここから本題です。
「東南アジア」というくくりで市場を語ってはいけない
まず、規模感をつかみましょう。
|
シンガポール |
マレーシア |
|
|---|---|---|
|
総人口 |
611万人(2025年央) |
3,430万人(2025年Q3) |
|
1人あたりGDP(名目) |
98,814ドル |
13,125ドル |
人口はマレーシアが5.6倍。1人あたりGDPはシンガポールが7.5倍です。
ここでひとつ補足です。1人あたりGDPは経済規模を人数で割った値なので、家計が実際に使えるお金(可処分所得)そのものではありません。物価も税金も両国で違います。それでも7.5倍の開きがあれば、「同じ商品を同じ価格では売れない市場だ」と判断するには十分ですよね。この2カ国を1本のサイトでまとめて狙おうとすると、どちらの国にも刺さらない中途半端なストアができあがってしまいます。
一方で、共通点もあります。インターネット普及率はどちらも98%台(DataReportal 2026。同社採用の人口系列に対する値)で、日本の約85%より高い水準です。ネットで顧客に届く土台は、すでに十分すぎるほど整っています。問題は「入口が開いているか」ではなく、「入ったあとに何を売るか」です。
シンガポール:小さいけれど、価格で戦わなくていい市場
シンガポールの総人口は611万人。ただし、そのうち約190万人は就労ビザなどで滞在する非居住者で、市民と永住者からなる「住民」は約420万人です。市場を人数で見るときは、この内訳を頭に入れておきましょう。
人数は少ない代わりに、1人あたりGDPは98,814ドルと世界トップクラス。日本のおよそ2.5倍です。所得水準が高い分、輸入品の価格が受け入れられやすい市場だと考えられます。ただし、実際にどの価格帯までいけるかはカテゴリ次第なので、現地の実売価格を調べて確かめるのがおすすめです。
日本製品との相性でいうと、こんな条件の商材が向いています。
- 単価が高く、粗利をしっかり確保できる
- 品質やストーリーで差別化できて、価格比較の土俵に乗らない
- 軽くて小さく、航空便の送料を吸収できる
逆に、単価が安くて重い日用品は、送料が価格に対して重くなりすぎるので不向きです。
マレーシア:大きいけれど、価格にシビアな市場
マレーシアの総人口は3,430万人で、シンガポールの5.6倍。年齢構成も若く、長い目で見れば魅力的な市場です。
ただし1人あたりGDPは13,125ドルと、日本のおよそ3分の1。日本国内の価格をそのまま持っていくと、「一部の富裕層向け」の価格帯に入ってしまいます。
マレーシアで数量を狙うと、どうしても価格競争に巻き込まれやすくなります。価格が主戦場になると、現地企業や中国発のプラットフォームが強い。自社ECで利益を出すには、価格以外の理由で選ばれる工夫が必要です。
それでもマレーシアを狙うなら、たとえばこんな選択肢が考えられます。
- 富裕層・都市部の中間層上位に絞って、単価を下げずに売る
- 現地価格に合わせた商品ラインを別につくる
ただ、2を選ぶならそれはもう越境ECではなく、現地向けの商品開発プロジェクトです。判断の重さが変わってくるので、最初の1年で決める話ではありません。
民族構成が「売れる商品」を決める
ここが、2カ国比較でいちばん見落とされやすいポイントです。
どちらも多民族国家ですが、構成比が大きく違います。先にお断りしておくと、シンガポールは住民ベース、マレーシアは国民ベースの公式統計で、分母が異なります。
|
民族 |
シンガポール(住民) |
マレーシア(国民) |
|---|---|---|
|
華人系 |
73.9% |
22.2% |
|
マレー系 |
13.5% |
58.2% |
|
インド系 |
9.0% |
6.5% |
|
その他ブミプトラ |
― |
12.3% |
シンガポールは華人系が7割超。中華圏の食習慣・贈り物文化・色の好みが購買行動のベースにあります。旧正月が最大の商戦期になるのもこのためです。
マレーシアはマレー系が過半数で、その多くがムスリム(イスラム教徒)です。ここで効いてくるのがハラル対応をどうするか、という論点です。
ハラル認証は「取れば市場が広がる」という単純な足し算では扱えません。カテゴリによって重みがまったく違います。お肉や、動物由来・アルコールを含む食品・化粧品では、認証の有無が棚に載るかどうかを左右します。一方で、そもそも対象成分を含まない雑貨や、認証がなくても受け入れられる日用品もあります。「認証を取らない=マレー系市場をあきらめる」というわけでもありません。
大事なのは、自社の商品がどのカテゴリに入るのか、現地の小売や消費者がどのレベルの認証を求めるのかを、進出前に個別に確認しておくことです。ここを一般論で済ませてしまうと、売上予測が根っこから狂います。
もうひとつ。食品・化粧品は、認証の前に現地への届出や許可が必要な場合があります。シンガポールなら化粧品の販売前通知や食品輸入の登録、マレーシアなら化粧品通知の主体として現地登録法人が求められる、といった具合に、カテゴリごとに参入の前提条件が変わります。市場選びの段階で、この「規制のゲート」を商品カテゴリ別に洗い出しておきましょう。
セール期が年3回ある
日本のEC事業者は、ブラックフライデーと年末商戦を軸に年間カレンダーを組みますよね。この感覚のまま東南アジアに行くと、最大の商戦期を逃します。
両国の主要な商戦期は、宗教・民族の行事にひもづいて年3回あります。
- 旧正月(Chinese New Year):1〜2月。華人系が中心。シンガポールでは最大の商戦期
- ハリラヤ(Hari Raya Aidilfitri):ラマダン明けのお祭り。マレー系が中心で、マレーシアでは最大級の消費が動く
- ディーパバリ(Deepavali):10〜11月。インド系のお祭り
さらに、東南アジア全域でダブルデー(11月11日、12月12日のようなゾロ目の日)が定着しています。もともとはモール発のイベントですが、消費者の「買うタイミング」そのものを動かしています。
注意したいのは、これらの日付が毎年動くこと。ハリラヤは毎年11日ほど前倒しになります。年間の在庫計画と広告予算を組む時点で、その年の日付を確認しておきましょう。
[画像: 現地モールの旧正月またはハリラヤ装飾。日本のクリスマス商戦との違いが視覚的にわかるもの]
年齢構成:訴求の重心が変わる
年齢の中央値は、シンガポールが住民ベースで43.2歳、マレーシアが総人口ベースで31.3歳。分母が違うので厳密な引き算はできませんが、「シンガポールは成熟市場、マレーシアは若い市場」という方向は動きません。
シンガポールは高齢化が進んでいて、日本と近い人口構成です。日本市場でうまくいった訴求がそのまま通じる余地があり、健康・シニア向けの商材は検証してみる価値があります。
マレーシアは若くて人数が多い分、SNSでの情報接触が購買の起点になりやすく、価格への感度も高め。同じ商品でも、シンガポール向けには「品質とストーリー」、マレーシア向けには「話題性と価格の納得感」を前面に出す、という使い分けになります。
英語環境:シンガポールは「英語ネイティブ圏」に分類された
ちょっと面白いデータがあります。語学教育大手のEFエデュケーション・ファーストが毎年発表している英語能力指数(123カ国・220万人超のテストデータが元)の2025年版で、シンガポールは英語ネイティブ圏として、指数の対象から外れました。「非ネイティブ国のランキングに載せる対象ではない」という扱いです。
代わってアジア1位になったのがマレーシア。世界24位・650点満点中581点で、「高い習熟度」の帯に入ります。
これが実務にどう効くかというと——
シンガポール向けなら、英語だけでサイトを立ち上げられます。多言語化の負担を最初から抱えなくていいんです。ただし相手は英語ネイティブ。機械翻訳っぽい英文は、それだけで信頼を落とします。求められるのは言語の「数」ではなく、英文の「質」です。中国語などの追加は、実際の問い合わせや購入率を見てから判断すれば十分です。
マレーシア向けも英語で通じます。ただ、華人系向けに中国語(簡体字)、マレー系向けにマレー語を併記したほうが刺さる場面もあります。ここは商材と狙う層によって判断が分かれるところです。
英語コピーの質が売上をどう左右するかは、シンガポール向けShopify越境ECの設計でチェックアウトまわりの話とあわせて詳しく扱っています。
判断フレーム:人口データは入口、採算が出口
ここまでの材料を、意思決定表に落とし込みます。
|
判断軸 |
シンガポール向き |
マレーシア向き |
|---|---|---|
|
商品単価 |
高単価・高粗利 |
中〜低単価で数量が出る |
|
差別化 |
品質・ストーリー |
価格・話題性 |
|
ハラル |
カテゴリ・顧客層により要確認 |
カテゴリ・顧客層により要確認 |
|
言語 |
英語でスタート可 |
英語+中国語/マレー語が有利 |
|
想定顧客 |
40代以上を含む全年代 |
20〜30代中心 |
|
最大商戦期 |
旧正月 |
ハリラヤ |
|
物流 |
空輸で採算が合う軽量品 |
重い商品は現地在庫の検討が必要 |
ただし、この表はあくまで「入口」の判断材料です。人口や所得のデータだけでは、自社ECが黒字になるかどうかは決まりません。最後にものを言うのは採算です。
参入を決める前に、最低限これだけは試算しておきましょう。
- 平均注文単価と粗利率
- 関税・税金・決済手数料を含めた着地原価
- 送料をどこまで自社負担するか
- 許容できる顧客獲得単価(CAC)の上限
- 見込めるリピート率
これらを置いたうえで、「1件売れたらいくら粗利が残って、CACがその範囲に収まるか」を国ごとに計算します。人口が多い国が有利とは限りません。数量が出ても粗利が薄ければ、広告費で消えてしまいます。
そのうえで言うと、多くの日本企業にとって、テストの1カ国目はシンガポールが検討の起点になりやすいと考えています。理由は3つです。
- 英語だけでスタートできて、初期投資を抑えられる
- 価格勝負を避けやすく、日本製品の粗利を守りやすい
- 高所得の英語圏市場での反応を、早い段階で確かめられる
シンガポールで「英語圏の高所得層に、日本製品がいくらで売れるか」を確かめてから、マレーシアや他のASEAN諸国に広げていく。この順番なら、小さく試して得たデータを次の市場でも使えます。
ただし例外もあります。すでに現地に販売代理店や現地法人があって、価格を現地水準に合わせられるなら、マレーシアから入って数量を取る戦略も成立します。自社の条件がどちらに当てはまるかで、答えは変わってきます。
まとめ
- マレーシア・シンガポールは「英語・所得・日本ブランドの浸透・EC物流基盤・横展開の土台」の5点で、東南アジア進出の入口に適している
- 迷ったらシンガポールから。英語だけで始められて、日本製品の価格が通りやすい。現地体制があるならマレーシア先行もあり
- ただし2カ国は1人あたりGDPで7.5倍、人口で5.6倍の差。同じ設計では売れない
- 民族構成が売れる商品を決める。ハラル対応の重みはカテゴリ次第で、一律の足し算では測れない
- 食品・化粧品はカテゴリによって現地の届出・許可が必要。規制のゲートは進出前に洗い出す
- 商戦期は旧正月・ハリラヤ・ディーパバリの年3回。日本のカレンダーは通用しない
- シンガポールは英語だけで始められるが、相手は英語ネイティブ。英文の質が問われる
- 人口データは入口の判断材料。最終判断は着地原価とCACの採算で
どの国から始めるかが決まったら、次は「どう届けるか」です。両国のSNS事情は日本とかなり違うので、マレーシア・シンガポールで使われるSNSと広告媒体の実態で媒体別の数字を紹介しています。
自社の商品がどちらの市場に向いているかを見極めるには、商品カテゴリ別の市場適性と競合の調査が必要です。世界へボカンでは、海外市場調査・戦略立案からお手伝いしています。お気軽にご相談ください。
出典
- Singapore Department of Statistics(SingStat)「Population in Brief 2025」(総人口・住民・民族構成・年齢中央値)
- Department of Statistics Malaysia(DOSM)「Current Population Estimates 2025 / Demographic Statistics Q3 2025」(総人口・民族構成・年齢中央値)
- World Bank「GDP per capita (current US$)」2025年掲載値
- EF Education First「EF English Proficiency Index 2025」
- DataReportal「Digital 2026: Singapore / Malaysia」(インターネット普及率)
※人口・所得・民族の各統計は国により分母(総人口・住民・国民)と基準日が異なります。この記事では分母を明記し、分母の異なる数値どうしの引き算・倍率計算はしていません。統計は毎年更新されるため、公開時に最新版をご確認ください。
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