対談
Interview
今回のnoteインタビューでは、「売れる仕組みをつくるマーケットリサーチ大全」の著者である菅原さんにユーザーインタビューやアンケート等の調査についてお話を伺います。
【菅原大介氏】
リサーチャー|【マーケットをつくるリサーチ】をライフテーマに活動中
上智大学新聞学科→学研→マクロミル→大手総合ECサイト
著書『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』(明日香出版社)|マーケティング/アンケート調査/ブランド/小売・サービス/雑誌研究/広報PR
徳田
こんにちは!世界ボカンの徳田です。
本日は、書籍「売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全」の著者でもあり、弊社のマーケットリサーチの監修も行っている菅原大介さんに市場調査の方法についてお話を伺いたいと思います。
菅原
はじめまして、リサーチャーの菅原です。
私は、キャリアをマクロミルという調査会社でスタートし、マーケティングリサーチに10年ほど携わっています。
その会社で調査技術について一通り学び、以降は事業会社で10年ほどリサーチのスキルを核として戦略立案・企画などに関わる仕事を担当してきました。
現在は、総合ECサイトを運営する事業会社で戦略を練る仕事をしています。
今日は、私が10年ほどやってきた色々なリサーチ手法について、徳田さんと一緒にお話していきたいと思います。
徳田
本日は調査について、どんな内容を説明いただけるのでしょうか?
菅原
事業会社などに勤める方が行う調査としては、おおよそ大きく4つの調査手法があると思います。
・アンケート
・インタビュー
・WEBのログ解析ツール
・デスクリサーチ
本日は、これらの代表的な調査手法についてお話ししたいと思います。
徳田
最初にアンケート調査のお話を伺いたいと思います。
我々は、調査でアンケートとユーザーインタビューの両方を組み合わせて行い、アンケートに出てきた内容をさらに深掘りするために少人数のインタビュー会を行うなどしています。
その時にアンケートでどういったアウトプットが出て欲しいかというのを想定して質問を設計したりするんですが、アンケートのやり方にはどういう手法があるんですか?
菅原
まず、アンケートについてリサーチャーがどのように質問の構成などを考えているのかを解説します。
前提として、アンケートには調査テーマがありますが、そのテーマに対応する基本的な質問と選択肢のパターンがあります。
ですので、アンケートで調べようとしていることが、どの調査テーマに当てはまるのをはじめに頭の中で整理するようにしています。
調査テーマについては、下記が通常の事業会社で行うメインのものとなります。
・ブランドポジション調査
・ユーザープロファイル調査
・コンセプト調査
・広告効果測定それからトレンド調査
徳田
調査テーマに沿ってベースとなるアンケートのやり方があるから、そこに少しアレンジをして業種ごとに変えていくというアプローチ手法があるんですね。
菅原
そうですね。
徳田
こちらの長所・短所についてお話を伺いたいです。
菅原
では、アンケート調査を使う時の長所・短所について説明をします。
アンケート調査は、ベースとなる調査手法で皆さんがやる機会も非常に多いものだと思いますが、まず長所について2つ挙げられます。
菅原
一つ目は、人の意識や行動を数値化できることです。
行動データの数値化については、例えばデータベースを分析する・WEBツールを使うことでもできますが、人の意識面を数値化するといった時にアンケートはすごく活躍をします。
よくアンケート調査の弱点として、記憶回答であり記憶を頼りにして回答しているということを頼りないと捉えるケースもあります。
しかし、記憶回答だからこそ過去の出来事の印象や現在の思い、これからどういう風にしていこうかという意向や気持ちなどを時間や空間を超えて回答してもらうことができます。
この点をすごく柔軟に設計することができるのは、アンケート調査の大きな強みです。
また、その意識のデータを行動のデータとセットにして同じデータテーブルの中で比較検討できるというのもアンケート調査の大きな魅力だと思っております。
菅原
2つ目のアンケートの長所に、結果データがそのまま提出のアウトプットになるという点があります。
他の調査手法の場合には、納品・提出するデータにおける考察の部分・示唆部分の比重が大きくなります。
そのため、調査結果からどれほど良いアイデアや良い知見を導き出すことができたかということが問われます。
アンケート調査は、それに対して基本的に表データと自由回答リストとグラフデータでボリュームのある納品・提出データを作ることができます。
この提出データだけでも一通りのデータとして認められるのは、他の調査手法と比べて大きな魅力と考えています。
徳田
逆にデメリットや短所は、ありますか?
菅原
今は、アンケートを自社内で実施する場合が多いと思います。
それはアンケートシステムが安価に良いものが使えるようになったこと、自社で多くの会員を保有し常に連絡できる状態にあるということなどから可能になってきました。
しかし、自社アンケート調査をやることで集まってくるデータは、自社の会員構成に引きずられたりして性別・年代・地域などが結構偏っているデータしか取れないということがあります。
そのあたりは、自社アンケートを行う時に限界がある点だなという風に思います。
徳田
確かにそれはありますね。
菅原
2つ目としては対象者のステータスをかなり厳密に設定する必要があります。
よくあるのは自社のWEBサイトやプロダクトについて調べた結果を報告する場面で、「競合についてもっとわからなかったの?」みたいなコメントが出てきたりします。
同様にあるいはマーケット全体について競合情報を調べた報告の時に「自社ユーザーについてもっとこれがわからなかったの?」みたいな話も発生します。
何を調査対象とするのかという設定の部分を細くしないと認識がずれていたりすることがあります。
アンケート前に調査対象者をしっかり設定するというのは、本当に大事です。
徳田
次に定性調査(インタビュー)についてお話を伺いたいです。
我々は、お客様が顧客の年齢・性別・年収などのどういったペルソナを設定されているかを伺います。
この前はイタリアに実店舗を持っているお客様のユーザーインタビューをさせて頂きました。
その時はそのペルソナに沿った人を集めてインタビューをさせて頂きましたが、良い意味でかなり内容が偏っていたと思っています。
一般的な情報ではないにしても、ペルソナとしている人たちが思っていることを知れました。
こちらが伝えたいと思っていたコンセプトがちゃんと顧客に伝わってるかを判断したり、逆に顧客が商品の使い方についてわかっていること・わかっていないことをこちらが理解できてすごく良かったです。
具体的には、インタビューはどのようなバリエーションがあるんですか?
菅原
定性調査(インタビュー)の手法について、よく使うのは下記になります。
・グループインタビュー
・デプスインタビュー
・ペアインタビュー
・ファンミーティング
菅原
まず、グループインタビューは座談会形式で4人、6人、8人みたいなパターンでユーザーもしくはモニターを集めて、その人たちから意見を聞くという流れになります。
デプスインタビューについては、一対一の形式でより深く時間を割いて一人の人に聞くという形です。
やり方としては基本的には同じ質問構成で考えるんですけども、グループインタビューの場合には参加者のバリエーションを保つことができます。
デプスインタビューの場合には、エピソードトークとかを拾いたい時にかなり便利です。一人に対して時間をかけてインタビューをやっていきますので、実際のエピソードまでしっかりと拾うことができるというのが強みになります
徳田
ロイヤルカスタマーの方に”なぜこれを購入にしようと思ったんですか? 競合はどういうところを見たのですか? どういうストーリーに共感してくださったんですか?” みたいな色々と聞けそうな感じがしますよね。
菅原
そうですね。
一つの質問をするにしてもその前後の質問をしっかりとフォローすることができるのがデプスインタビューの良さですね。
それから自社で行う内製型調査で行う場合に使えると思っているのがペアインタビューの形式です。
自社でもグループインタビューやデプスインタビューを開催できますが、グループインタビューだと人数を集めるのがかなり大変です。
デプスインタビューだと声をかけた調査対象者が必ずしも詳しく話してくれるかというのがわからないという難点があります。
もし扱っている商材がオープンに話しても大丈夫な場合は、ペアで友達同士とかで来てもらって商品の使用体験や一緒に共有した体験などを話してもらうと、生き生きとしゃべってもらいやすくなるというのはあります。
徳田
なるほど。実際に調査する場合は、運用面も考慮する必要がありますね。
菅原
それから自社で行う場合には、グループインタビューとほぼ同じですがファンミーティングという手法があります。
こちらはグループインタビューよりもイベント的に仕立てる形になります。
調べる対象が自社のことでもいいですし、これから何かやろうと思っていることを取り扱っても良いと思います。
あるマーケットやあるブランドについてファンの人たちの濃い意見を聞くっていうのがこのファンミーティングの見所で、ファンの人たちの知見はほんとに凄いので参考になります。
徳田
僕たちも乙女系ゲームのプロジェクトがあったりして、そのファンの方たちの声を凄く聞きたいなと思ったんですよ。
これは、ありですね!
菅原
そうですね。
その人たちの頭の中には、業界などの1年間のスケジュールがびっしり入ってたりするので業界の見通しとかを尋ねるのも結構有効ですね。
徳田
確かにファンミーティングはありですね。特にニッチであればニッチであるほど良い情報が得られそうですね。
それぞれの長所・短所を簡単に教えて頂きたいです。
菅原
まず、インタビュー調査の長所についてお話をいたします。
1つ目は参加者の生の声から、意見の広さや深さが分かるということですね。
アンケートは対面やオンラインで実際に聞くことができるので、自分たちが予測しなかった商品の使い方や物事の考え方などを知れることが大きな魅力となります。
徳田さんもイタリアで実施されたということですけども、より顧客の生の声を聞くことができたんじゃないかなと思っています。
顧客の商品の使い方とか想いみたいなのを聞いていく時にすごく有効な手法になっています。
徳田
すごく発見がありましたね。
菅原
それからもう一つの大きなメリットは、共通のターゲットイメージを私たち側が調査を行う企業が知ることができるということがあります。
調査会社にグループインタビューを発注するとインタビュールームという所で鏡越しに参加者の人がテーマについて討議している座談会の様子を見ることができます。
発注主の企業関係者はミラー越しに見ている時にユーザーってこういう考え方をしているのとか、こういう判断基準みたいのなんだっていうのが目の前で繰り広げられるのを見て、自分たちの意識が揃っていきやすいですね。
通常は、物事を決める時に会議の場でデータを見ながらものを考えたり、大きな会社だと誰々さんを説得するためのデータを収集するといったことを段取りとしてやったりしています。
しかし、インタビュー現場に立ち会うと自然と参加するメンバーの中で意識が噛み合って行くということがあります。
徳田
みんなが顧客の方を見るようになるということですね。
菅原
まさしくお客さんのためにみんなで同じ時間を割くっていう部分が非常に大きな長所だなという風に思っています。
徳田
デメリットは、ありますか?
菅原
定性調査(インタビュー)の短所としては、一つは参加者の発言や体験にすごく結果が左右されるというところですね。
先ほど徳田さんもそれを感じたっていう風におっしゃってたんですけども、良い時にはすごく良いんですけど、何も出てこない時は本当に何も出てこないので(笑)
大体1回のインタビュー時間は、外注する場合は2時間ぐらいかかります。
時間をかけて現場立ち合いに時間を割くんですけども、何も出てこない場合には本当に2時間何もない実りのない話を聞いて終わりっていうパターンが実は結構あったりします(笑)
菅原
時間を無駄にしないためにどうしたら良いのかという話なんですけど、対象者を集めてくる時点で精度を高くやることだと思います、
インタビューのその場で話を聞けばいいやって私たち考えがちになってしまします。
しかし、対象者のリクルーティングの時に基本属性だけじゃなくて聞こうとするトピックスに対して十分な意見を持っている立場の人なのか、あるいはそういった経験を持ってる人なのかを割と細かく探るようにしています。
実はインタビュー調査の事前段階からアンケートのスキルが結構問われていたりしており、ここはかなり結果に密接に結びついていたりします。
徳田
インタビュー設計や対象者の選定というところから、結果は決まっているということですね。
菅原
それから2つ目の短所は、ファクト最優先の文化組織の会社ではこの定性調査(インタビュー)についての理解が得られにくいっていうのがあります。
データを重視している会社組織だとそれを数字に直すとか数字に置き換えて持ってきて欲しいというお話があります。
また、インタビュー調査などでも例外なくそういった指摘も入ったりするんですね。
定性調査は、定量調査に比べてサンプル数がどうしても少ない調査手法になるので、じゃあこういう考え方の人何%ぐらいいるの? と聞かれた時に回答するのが難しくなります。
段階的にインタビューとアンケートを組み合わせてやっていくことが理想ですが、予算等や時間などの制約から回数的にアンケートでやるのかインタビューでやるのかを選択してそれを1回でやらざるを得ません。
しかし、一回では全てが取りきれないことが多いのでファクト最優先の組織文化を持っている企業では、1回で全てのデータを出すのはなかなか難しいことかなと感じています。これは定性調査の難しい点だと思います。
徳田
我々は、定性調査をして回答者の声をベースにコンセプト決めたり、海外マーケティングの切り口や戦略を決めたりするんですけど、回答に寄ってしまうことがあります。
それがファクトに値するかというところは広告を配信しながら実際にテストするなど、何かしらの仮説を検証していくフローがないとなかなか難しいですよね。
ファクトを揃えるための調査に時間をかけ過ぎると前に進めないので、仮説を立てるためのインタビューみたいな位置づけで弊社ではやっていますね。
菅原
インタビューフローを組むときにファクト最優先の文化組織でどのようにやっていくのかと言うと、一つはスタディーとしてその調査結果を捉えられることにしておくということだと思っています。
徳田
菅原さんのおっしゃる通りインタビューの結果ってファクトかどうかって分かんなくて、全てインタビューで完結するっていうよりかは、その他の広告配信などの仮説検証なども合わせた方法で我々はやっていますね
菅原
インタビュー調査の結果を充実させようという時にファクト最優先の文化の組織で何が出来るのかって言うのを私もずっとトライしていたんですけども、心がけると良い事って2つあるなと思ってるんですね。
菅原
1つは、インタビューをきちんとスタディーとしてそのトピックスについて分析できるようにしとくということ。
例えば個別の事象に対して、"Aさんはどう思いますか?”ということをインタビューの現場ではやりますよね。
ただ、納品されるデータとしては 、Aさんの意見っていう風な形になっていてそれを報告を受ける会社の人たちも「これは、Aさん個人の意見だよね」という風にファクト最優先の組織ではなってしまいます。
個別の事象とみなされると結局 N 1は信用できないみたいな話になってしまいます。
そうしないためにAさんの意見をもっと抽象化してケーススタディとして捉えられるようにする必要があります。
Aさんの意見がある業界の中でどういう風に捉えられるのか、もしくは業界業態の中でどんな風にその意見を捉えることができるのかなどと抽象化してケーススタディとして捉えられるようにすることがすごく大事だと思っています。
徳田
つまりは、どうアウトプットするのかという話でしょうか?
こういう業態の人、こういうクラスターの人はこういう傾向にありますというアウトプットだとそれを傾向として捉えてもらえるといういう事でしょうか?
菅原
そうですね。
例えば、競合Aについて話をする機会があったとして、「それは、そのブランドAだけについての話でしょ?」と報告会の現場で突っ込まれたりすることがありますよね。
そうしないためにブランドAについて調べる時に必ずケーススタディとして分析できるようにしたほうが良いです。
例えば、Aというブランドのファッションだったらファッション、フードだったらフード、その業界あるいは業態について抽象化して分析ができるようにするのがすごく大事だということです。
徳田
質問の設計でそれを個別の案件としてとらえるか、業界全体のファクトとして捉えるかが変わってくるということですね。
なかなか難しいですね。
菅原
自分も営業優先の組織でずっとやってきたのでなかなか定性調査を提案したりとか自信を持って勧めるって結構難しかったりします。
しかし、定性調査が新しいアイディアを引き出ししたりする時にすごく有効な手法なのは確かなので、どうやってそのデータを提案するのかがすごく大事だなと思っています。
徳田
ありがとうございました。
インタビュー後編でも色々とお伺いしたいと思います。
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文・編集:白似田洋介、加納宏徳
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