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シンガポール向け越境EC、Shopifyで何をローカライズすべきか|「英語化しただけ」で売れない理由と7つの要素

執筆者

北村 翔吾

プロフィール詳細

マレーシアに留学後に自動車輸出会社で海外営業担当をしたのち、世界へボカンにジョイン。
広告運用チームでFacebook広告、Google広告、インフルエンサー施策、アフィリエイト施策など幅広いプロジェクトに携わっている。

「英語のサイトはもう作りました。でも、シンガポールからの注文が入らないんです」

越境ECのご相談で、本当によくあるパターンです。サイトを英語にして、Shopifyで海外配送も設定した。なのに売れない。

原因の多くは、翻訳の問題ではありません。現地の買い物体験に合わせる「ローカライズ」が足りていないためです。シンガポールの消費者は、日本とは違う決済手段で払い、違う基準でお店を信頼し、違うポイントで離脱します。せっかく広告でサイトまで連れてきたお客さまが、決済画面で静かに消えていく——これがいちばんもったいない失敗です。

この記事では、日本からシンガポールへShopifyで売っていくために押さえるべきローカライズの要素を、7つに整理してお伝えします。「何から手をつければいいか」がわかるチェックリストとしてお使いください。

なぜ「英語化しただけ」では売れないのか

シンガポールは、日本企業にとって越境ECの1カ国目に選ばれやすい市場です。英語が通じて、所得水準が高く、日本製品への信頼もある。この選択自体は理にかなっています(市場選びの考え方はマレーシアとシンガポールの市場比較でまとめています)。

 

シンガポールは、日本企業が東南アジアで越境ECを始めるときの1カ国目に選ばれやすい市場です。ジェトロの調査でも、日本企業のECによる海外販売先として、シンガポールは東南アジアで最上位に挙がっています(2020年度調査・n=590、全体では中国・米国・台湾・香港に次ぐ5位)。英語が通じて、所得水準が高く、日本製品への信頼もある。この選択自体は理にかなっています(市場選びの考え方はマレーシアとシンガポールの市場比較 でまとめています)。

ただ、「英語が通じる=日本のサイトを英訳すれば売れる」ではありません。日本のECサイトをそのまま英語にすると、たとえばこんな状態になりがちです。

  • 価格が日本円のまま(頭の中で換算させている)
  • 決済がクレジットカードだけ(現地で使われる決済手段がない)
  • 送料と関税がカートに進むまでわからない
  • 問い合わせ先がメールフォームだけ(現地はチャットで聞くのが普通)
  • 商品説明の英語が機械翻訳っぽい

ひとつひとつは小さなことに見えますよね。でも、買う側から見ると「このお店、私たち向けに商売してないな」というサインの積み重ねです。ここからは、これらを7つの要素に分けて、順番に潰していきます。

 

要素①:決済——シンガポールの「当たり前」を揃える

いちばん転換率に響くのが決済です。

シンガポールのオンライン決済は、クレジット/デビットカードに加えて、PayNow(銀行間の即時送金網。日本でいう銀行振込のQR即時版)、GrabPayなどの電子ウォレット、Apple Pay / Google Pay、そしてAtomeなどの後払い(BNPL)が主な選択肢です。カードだけを用意して他を取りこぼすと、「いつもの払い方」ができないお客さまが決済画面で止まります。

ここでShopifyユーザーが気をつけたいのが、Shopify Paymentsの扱いです。「Shopify Paymentsはシンガポール非対応」と紹介されることがありますが、正確ではありません。シンガポールで利用できます。ただし、日本企業にとっては2つの切り分けが必要です。

  1. 誰が売るか:シンガポール版のShopify Paymentsを使うには、原則としてシンガポールの事業体(UEN登録)と現地の銀行口座が必要です。日本法人が日本から越境販売する場合は、日本のShopify Paymentsで多通貨販売する形が基本になります。現地法人を立てるかどうかで、使える決済の構成が変わります
  2. ローカル決済の載せ方:PayNowやGrabPayは、Shopify Paymentsのネイティブな決済手段には含まれません。載せるには、対応する外部決済ゲートウェイ(HitPay等)を別途つなぐ必要があります

「Shopifyだから決済は自動で片づく」のではありません。自社の販売主体を先に決めて、載せたい決済手段ごとに「使えるか・入金口座・追加手数料」を確認する。ここを最初に詰めておかないと、公開直前に決済が組めず立ち往生します。

要素②:通貨——シンガポールドルで「見せて」「決済まで通す」

シンガポールのお客さまに日本円の価格を見せると、それだけで離脱の理由になります。買う前に電卓を叩かせてはいけません。

Shopify Marketsを使えば、地域ごとに表示通貨を切り替えられるので、シンガポール向けにはシンガポールドル(SGD)を初期表示にしましょう。

もうひとつ大事なのが、「見せる通貨」と「決済できる通貨」は別だということ。SGDで価格を表示していても、決済ゲートウェイの構成によっては、チェックアウトで日本円に戻ってしまうことがあります(現地通貨での決済処理は、原則としてShopify Paymentsまたは対応ゲートウェイを使う構成が前提です)。「SGDで表示して、SGDのまま決済まで通せるか」を、使うゲートウェイごとに確認してください。

細かいところでは、為替の端数の丸め方(S$49.37より S$49)、送料・税込みの総額の見せ方も設計ポイントです。カート投入時と決済時で価格がずれると、それも離脱につながります。

要素③:チェックアウト——スマホ前提で摩擦を削る

シンガポールのオンライン購入はモバイル中心です。日本仕様のままだと、こんなところで引っかかります。

  • 住所フォームが日本の「郵便番号→都道府県」前提のまま(シンガポールは6桁のPostal Codeで住所がほぼ確定します)
  • 入力項目が多すぎる(フリガナ欄が残っているサイト、実は結構あります)
  • 1タップ決済(Apple Pay / Google Pay)がない

住所フォームを現地形式に合わせ、入力は最小限に、1タップ決済を用意する。地味ですが、スマホでは積み重なって転換率に効いてきます。

要素④:配送・関税・返品——「いつ・いくらで届くか」を先に見せる

越境ECで買う側のいちばんの不安は「ちゃんと届くのか、いくらかかるのか」です。ここを曖昧にしたまま買ってもらうのは難しいです。

  • お届け日数と送料を商品ページの段階で見せる。カートに進むまでわからない設計は、それだけで離脱を増やします
  • 関税の負担者を決めて明示する。DDP(売り手が関税を負担して価格に込み)か、DDU(買い手が受け取り時に払う)か。受け取り時に予想外の請求が来る設計は、レビューとリピートを確実に傷つけます
  • 返品の扱いを先に決める。日本へ送り返してもらうのか、返送不要で返金するのか。国をまたぐ返品は国内ECよりずっと重いので、ポリシーを購入前に明示しておきます。

日本からの直送か現地在庫かは損益分岐の問題で、売れ行きが読めない初期は直送スタートが一般的です。その場合こそ、リードタイムの正直な表示が効きます。

要素⑤:税金——低額輸入品のGSTをざっくり押さえる

シンガポール向けの販売では、税金のルールもローカライズ項目のひとつです。概要だけ押さえておきましょう(税務アドバイスではないので、実際の対応は税理士など専門家にご確認ください)。

シンガポールでは2023年1月から、輸入される低額商品(Low-Value Goods)にGST(消費税に相当、9%)がかかります。対象は航空便または郵便で輸入されるS$400以下の商品。海外の販売者は、目安としてグローバル年間売上S$100万超かつシンガポール向け対象供給S$10万超でGST登録が必要になります。S$400を超える貨物は従来どおり輸入時の課税手続きです。

「S$400以下だけ課税で、それ以外は免税」という単純な話ではなく、販売者の登録有無・商品単価・貨物価額・輸送手段で扱いが変わります。金額基準も改定されうるので、自社のケースは公開前に当局サイト(IRAS / Singapore Customs)でご確認ください。

ちなみにマレーシアにも似た制度があり(RM500以下に売上税10%、2024年1月〜)、東南アジアの複数国に売るなら国ごとの確認が必要です。

要素⑥:言語——英語「の質」が信頼を決める

シンガポールは英語ネイティブ市場です。そのため、多言語化は不要で、英語だけでスタートできます。これは日本企業にとって大きなメリットですよね。

ただし、だからこそ英文の質がそのまま信頼になります。相手はネイティブなので、機械翻訳っぽい商品説明は一発で見抜かれます。日本国内向けの「とりあえず英語がある」レベルと、「英語で商売している」レベルの間には、はっきりした壁があります。

優先順位をつけるなら、お金に関わるページからです。商品説明、送料・返品ポリシー、FAQ。ここの英語が稚拙だと、商品がよくても「このお店で買って大丈夫かな」と思われてしまいます。翻訳ではなく、ネイティブによるコピーライティングの領域です。

なお、シンガポールは華人系が7割超の市場なので「中国語も必要では?」と聞かれることがありますが、最初は英語だけで十分です。追加は、実際のお客さまの層・検索語句・問い合わせを見てから判断しましょう。

要素⑦:問い合わせ導線——フォームだけでは「反応の遅い店」

日本のサイトをそのまま英語化すると、問い合わせ先がメールフォームだけになりがちです。これ、現地の感覚では「反応の遅いお店」に見えます。

シンガポールを含む東南アジアでは、買い物の相談をチャットで済ませる文化が根づいています。WhatsAppでサイズを聞いて、在庫を確認して、そのまま買う。フォームを送って翌営業日に返事が来る体験とは、スピード感がまるで違います。

対応は段階的でOKです。WhatsApp Businessのボタンを置く、Instagram DMの返信を運用に組み込む、そして「平日9〜18時、2時間以内に返信します」のように返信時間を明示する。この明示だけでも、問い合わせのハードルはぐっと下がります。媒体側の話はマレーシア・シンガポールで使われるSNSと広告媒体の実態で詳しく書いています。

土台の設計:ドメインと翻訳の運用体制

7つの要素を支える土台として、最初に決めておきたいことが2つあります。

ドメイン構成:日本向けと海外向けを1つのドメインでやるか、分けるか。Shopify Marketsを使えば、市場ごとのURL(サブフォルダ等)とhreflang(「このページは英語圏向け」と検索エンジンに伝えるタグ)をある程度自動で扱えます。設定が正しくないと、検索結果で意図しない言語のページが出てしまうので、最初の構成段階で決めておきましょう。

翻訳の運用:英語コピーは一度作って終わりではありません。商品を追加するたびに英文説明が必要になります。誰が・どの品質基準で・いつ更新するのか。ここを決めずに走り出すと、新商品だけ英語が雑になり、サイト全体の信頼がじわじわ下がります。

設計の視点:シンガポール「だけ」をゴールにしない

最後に、サイト全体の設計方針についてひとつ。

シンガポールの総人口は約611万人。市場としては大きくありません。実際、シンガポール発の有力Shopifyブランド26社の検索流入を調べてみたところ、国内向け中心のブランドの検索流入はサンプル内で最大6.3万ほどにとどまり、それを大きく超えたブランドはどこも国外からの流入をしっかり持っていました(Ahrefs推定オーガニック検索流入・2026年7月時点。売上そのものではなく、あくまで検索の入口の話です)。

シンガポール発Shopifyブランド26社の、オーガニック検索流入に占めるシンガポール国内比率(Ahrefs推定・2026年7月時点)

日本企業にとってのヒントはここです。シンガポール向けに作った英語のストアは、そのまま英語圏展開の土台になります。シンガポールで通用した英語コピーや商品説明は他の英語圏にも再利用しやすい。だから「シンガポール専用サイト」として閉じるのではなく、最初から「英語圏の入口」として設計しておくと、次の市場に広げるときの作り直しを防げます。

もちろん、通貨・決済・配送・税は市場ごとに変わるので、丸ごと流用はできません。それでも、7つの要素を「シンガポールで固めてから横展開する」順番は、投資を無駄にしにくい進め方です。

よくある質問:ShopeeやLazadaじゃダメなの?

「シンガポールにはShopeeやLazadaがあるのに、なぜ自社のShopifyを作るの?」——もっともな疑問なので、整理しておきます。結論は、どちらか一方ではなく、役割が違います。

マーケットプレイス

自社Shopify

集客

既存の流入がある

自前で集める必要がある

立ち上げ速度

速い

相対的に遅い

主なコスト

販売手数料が売れるたびにかかる

構築費・月額・アプリ・保守・集客費

価格競争

同一商品で比較されやすい

比較から距離を置ける

顧客データ

プラットフォームが保持

自社で持てる

リピート導線

組みにくい

メール等で組める

需要がまだ読めない段階なら、マーケットプレイスで小さくテストするのは理にかなっています。一方、ブランドとして継続的に売り、顧客データを資産にしてリピートを設計したいなら、自社ECの出番です。「マーケットプレイスで確かめて、自社ECに軸足を移す」という順番も現実的ですし、併用も珍しくありません。

なお、世界へボカンがお手伝いしているのは自社Shopifyの構築と集客で、マーケットプレイスの運用代行は扱っていません。

ローカライズ要素チェックリスト

ここまでの7要素を、確認用にまとめます。

要素

最低限やること

見落としがちな点

①決済

カードに加えPayNow・ウォレット・BNPLを検討

販売主体(日本法人か現地法人か)で使える構成が変わる

②通貨

SGDを初期表示に

表示だけでなく決済までSGDで通るか

③チェックアウト

住所フォームを現地形式に・1タップ決済

日本用のフリガナ欄・郵便番号形式の残存

④配送

日数と送料を商品ページで開示

関税の負担者(DDP/DDU)と返品ポリシー

⑤税金

低額輸入品GSTの該当を確認

登録義務の基準額・制度改定

⑥言語

金銭に関わるページからネイティブ品質に

商品追加時の翻訳運用体制

⑦問い合わせ

WhatsAppボタン+返信時間の明示

フォームだけだと「遅い店」に見える

Shopify越境ECの構築は、こんな企業に向いています

  • 高単価・高粗利で、価格勝負に巻き込まれにくい商材を持っている
  • 国内でひととおり売れていて、海外に伸ばす余力がある
  • 英語での顧客対応を、社内かパートナーで回せる
  • 単発ではなく、ブランドとして継続的に売っていきたい

逆に、単価が安く送料負担が重い商材や、「そもそも需要があるのか」を確かめたい段階なら、数百万円規模の構築に進む前に、小さくテストする選択肢を検討したほうがいいと思います。

まとめ

  • 「英語化しただけ」の日本のサイトは、シンガポールでは買ってもらえない。原因は翻訳ではなくローカライズ不足
  • 最優先は決済。PayNow・ウォレット・BNPLを揃え、販売主体とゲートウェイの構成を最初に詰める
  • 通貨はSGDで「見せて」「決済まで通す」。配送は日数・送料・関税負担を購入前に開示する
  • 英語は「あるか」ではなく「質」。金銭に関わるページからネイティブ品質に
  • 問い合わせはフォーム任せにせず、チャット導線と返信時間の明示を
  • シンガポール専用に閉じず、「英語圏の入口」として設計すると次の市場への横展開が効く

世界へボカンは、越境ECに特化したShopifyマーケティングエキスパートとして、戦略設計から英語コピーライティング、公開後の集客まで一貫してお手伝いしています。「英語サイトはあるのに売れない」でお悩みの方も、これから作る方も、お気軽にご相談ください。

出典・データ

  • 決済手段:Shopify公式ヘルプ(Shopify Payments Singapore)、HitPay(Singapore payment methods)
  • 税制:Singapore Customs / IRAS(GST on Low-Value Goods)、Malaysia MOF / RMCD(Sales Tax on Low-Value Goods)
  • ブランド別の推定オーガニック検索流入:Ahrefs(2026年7月時点)。母集団はskailama・magenest・honeykidsasiaほか公開リストから、シンガポール発祥・自社ブランド・自社ECの条件で26社を抽出。推定オーガニック検索流入であり、売上・注文・配送先・広告/直接流入を含まない
  • 各ブランドの通貨・言語設定:各公式サイトの実地確認(2026年7月)

※決済・税・プラットフォームの仕様は変更が頻繁なため、実装前に一次情報で最新をご確認ください。本記事の税に関する記述は一般情報であり、税務助言ではありません。

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